エステサロンの売上を安定させる回数券やコース契約。一方で、一定の条件を満たすエステの契約には特定商取引法(特商法)のルールが適用され、書面の交付、クーリング・オフ、中途解約の精算方法まで決められています。知らずに回数券を販売すると、返金トラブルや行政処分につながりかねません。本記事では、サロンオーナーが押さえておくべきポイントを、消費者庁の公表資料をもとに整理します。
※本記事は2026年9月時点で消費者庁「特定商取引法ガイド」が公表している内容をもとにした概要です。個別の契約書の作成や判断は、弁護士など専門家にご確認ください。
この記事の結論
エステの契約は、契約期間が1か月を超え、かつ金額が5万円を超える場合、特定商取引法の「特定継続的役務提供」にあたります。この場合、契約前の概要書面と契約後の契約書面の交付が必要で、お客様は書面を受け取ってから8日以内ならクーリング・オフでき、その後も中途解約できます。中途解約でサロンが請求できる損害賠償は、施術開始前は2万円、開始後は2万円か契約残額の10%のいずれか低い額(+提供済みの施術の対価)が上限です。回数券は、この条件を前提に金額・期間・精算ルールを設計しましょう。
エステの回数券・コースに特定商取引法が適用される条件
特定商取引法では、エステティックを「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術を行うこと」(美容医療を除く)と定めています。次の2つの条件を両方満たす契約が「特定継続的役務提供」の対象です。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 期間 | 契約期間が1か月を超える |
| 金額 | 契約金額が5万円を超える |
具体例で確認
| 契約の例 | 特商法の対象か |
|---|---|
| 痩身10回コース 12万円・有効期限6か月 | 対象(1か月超・5万円超) |
| フェイシャル5回券 4万5千円・有効期限3か月 | 対象外(5万円以下) |
| 集中ケア 8万円・2週間で4回 | 対象外(1か月以内) |
| 月額制(毎月引き落とし)のサブスクメニュー | 契約内容によって判断が分かれるため、専門家に確認を推奨 |
対象外の契約でも、消費者契約法など別のルールは適用されます。「対象外だから何をしてもよい」わけではない点に注意してください。
対象になるときにサロンがやるべきこと
1. 契約前に「概要書面」、契約後に「契約書面」を渡す
概要書面には、事業者の名称・住所・電話番号、施術の内容、関連商品、料金と支払い方法、提供期間、クーリング・オフ、中途解約、前受金の保全措置などを記載します。契約を結んだ後は、契約内容を記載した契約書面を渡します。
2023年6月からは、お客様の承諾を得れば、書面の内容を電子メールなどの電磁的方法で提供することもできるようになりました。ただし、承諾の取り方や、お客様が閲覧できる環境かの確認などの要件があります。
2. クーリング・オフに対応する
お客様は、法律で定められた書面を受け取った日から数えて8日以内であれば、書面または電磁的記録で契約を解除できます。この場合、サロンは受け取った代金を返金し、損害賠償や違約金は請求できません。
3. 中途解約に応じる
クーリング・オフ期間を過ぎても、お客様は将来に向かって契約を解除できます。サロンが請求できる金額には上限があります。
| 解約のタイミング | サロンが請求できる上限 |
|---|---|
| 施術の提供開始前 | 2万円 |
| 施術の提供開始後 | 提供済みの施術の対価 + 2万円または契約残額の10%のいずれか低い額 |
4. 関連商品の扱いを知っておく
エステの契約に付随して販売する健康食品、化粧品、下着類、美顔器、脱毛器などは「関連商品」として指定されており、本体の契約をクーリング・オフするときに、あわせて解除できます。コースとホームケア商品をセットで販売する場合は、関連商品として扱われる前提で説明しましょう。
5. 禁止行為をしない
事実と違うことを告げる、重要なことを故意に伝えない、威迫して困惑させる、といった行為は禁止されています。「今日契約しないと効果が出ない」「解約はできない」などの説明は避けてください。
6. 前払いの場合は財務書類を備え置く
5万円を超える前払いを受ける場合は、貸借対照表などの財務書類を備え置き、お客様から求められたら閲覧できるようにする義務があります。
中途解約の精算を計算してみる
例として、10回コース 10万円(1回1万円)を一括で受け取り、3回施術した後に中途解約の申し出があった場合です。
| 項目 | 金額 | 考え方 |
|---|---|---|
| 支払済みの金額 | 100,000円 | 一括払い |
| 提供済みの施術の対価 | 30,000円 | 契約時の単価1万円 × 3回 |
| 契約残額 | 70,000円 | 100,000円 − 30,000円 |
| 損害賠償の上限 | 7,000円 | 2万円と残額の10%(7,000円)のいずれか低い額 |
| 返金額 | 63,000円 | 100,000円 − 30,000円 − 7,000円 |
消費者庁の事例解説では、提供済みの施術の対価は契約締結時の単価を上限とし、解約時だけ高い単価で計算する定めは無効になるとされています。「キャンペーン価格で契約したが、解約時は通常価格で精算する」といったルールは避けましょう。
トラブルを防ぐ回数券・コースの設計ポイント
- 金額と期間の組み合わせを把握する:どのメニューが特商法の対象になるかを一覧にし、スタッフ全員が分かるようにします。
- 書面をテンプレート化する:概要書面・契約書面の記載事項を漏れなく入れた書式を用意します。業界団体のひな形を参考にし、専門家の確認を受けると安心です。
- 精算ルールを契約前に説明する:クーリング・オフと中途解約の計算方法を、契約前に口頭と書面で伝えます。
- 有効期限を無理に短くしない:予約が取れずに期限切れになるとトラブルの原因になります。予約枠と販売数のバランスを管理しましょう。
- 来店履歴を正確に残す:中途解約の精算では、提供済みの回数が根拠になります。カルテや来店記録を正確に管理しておくことが重要です(サロン顧客管理完全ガイド)。
- 効果を断定しない:「必ず痩せる」などの表現は、景品表示法などの問題にもつながります。
回数券・コースを売りやすくするには
ルールを守ったうえで、お客様に「続けたい」と思っていただけるメニューを作ることが、回数券販売の土台です。ワムが取材した導入サロン38件では、21件(55%)がリピート・継続来店に、15件(39%)が客単価の上昇に言及していました。施術中から変化を体感できるメニューは、コース契約の納得感につながります(導入サロンの成果まとめ)。
※取材時のサロン様ご本人の発言を集計したものです。成果はサロンにより異なり、同様の結果を保証するものではありません。
値上げせずに客単価を上げる方法はサロンの客単価を上げるのが怖い?、コースの中身になる機器の選び方は業務用痩身機器の種類とおすすめの選び方をご覧ください。
チェックリスト
- 1か月超・5万円超のメニューを把握している
- 概要書面・契約書面の書式があり、必要事項を記載している
- 電子交付する場合は、お客様の承諾を得る手順がある
- クーリング・オフ(8日間)と中途解約の精算方法を説明している
- 精算は契約時の単価で計算するルールになっている
- 関連商品(化粧品・健康食品など)の扱いを説明している
- 5万円超の前払いを受ける場合、財務書類を備え置いている
- 来店履歴・施術回数を正確に記録している
まとめ
エステの回数券・コースは、期間1か月超・金額5万円超で特定商取引法の対象になり、書面交付、8日間のクーリング・オフ、中途解約と損害賠償の上限といったルールに従う必要があります。ルールを前提に金額・期間・精算方法を設計し、契約前に丁寧に説明することが、トラブルを防ぎ、長く通っていただけるサロンづくりにつながります。詳しくは消費者庁「特定商取引法ガイド(特定継続的役務提供)」をご確認ください。